裁判所の周りもすっかり雪に覆われたころ、その男の裁判は行われた。
50代後半のこの男、身長は180センチほどあるだろうか。ベージュのジャケットに黒のシャツ、グレーのズボンに身を包んだ男。頭髪はほとんどなく、額には数本のしわが刻まれていた。
「詐欺」事件といっても特殊詐欺などではなく「無銭飲食」
男が問われている罪は起訴状などによると以下の通りだ。
札幌市内の飲食店で支払う気がないのに飲食をし、店主に損害を与えたもの
男は起訴内容について「間違いありません」と裁判官に答えた。
男の本籍は神奈川県。中学卒業後、調理師や土木作業員など職と住所を転々とし、前科は9犯。このうち6件が「無銭飲食」だ。前回の罪で仮釈放されたのはわずが1年前。
今年●月の夕方、札幌市中央区すすきのの飲食店に入った男はまず最初の店で飲食をし「生活保護費が入ったら払う」と、現在申請中の生活保護をすでに受給しているかのように話し、1店目の支払いを免れる
酔った勢いで向かった2軒目。もう薄暗い時間になっていた。すすきのでも大規模なビルの3階にあるスナック。2時間4000円のセットの店だったが最初に飲み放題のメニューにない瓶ビールを注文。
男はその際、店長に対し「3で抑えて」と言っていたという。「3万円」のことだと理解した店長はその後も男の注文する通りに酒を出した。
所持金116円なのに…「バーボンないのか」
さらに酔いが進んだ男は、店長に店にはないバーボンを出すよう言う。そして、店の常連客の女性と一緒に近所にバーボンを買いにいった男は店から預かった金でワイルドターキーを購入。そしてそれを常連客や店員らにもふるまったという。
そして午前2時半ごろ。もう店を閉めたいと思った店長は男に3万円を支払うよう求めた。すると…
「ツケで飲もうと思っていた。カードもないし」
ツケは行っていないとして店は警察に通報。男は逮捕された。
そのとき男の所持金は116円だった。
被告人質問で強調された意思の弱さ
弁護:なぜ無銭飲食をしたんでしょうか
被告:えー・・・私は自分の部屋でお酒を飲み、えー酔っぱらった勢いで飲みたくなっちゃってというのがあるんですけど、飲んじゃうと自分でコントロールできなくなるんで。軽く依存ぽいのがあると思います。
弁護:無銭飲食したときお金は
被告:なかったです
弁護:お金がなくてどうするつもりだったのですか。
被告:生活保護の申請中だったので、お金が入ってきたら払うという考えにしていました。
弁護:あとで支払うつもりだった?
被告:えーできればツケ払いで
弁護:あなたは前にも無銭飲食していますよね
被告:はい
弁護:なぜまた無銭飲食したんですか。
被告:人間関係…職場で自分より年に上から目線でぐずぐず言われてお酒を飲んでうさばらしをしたというか。
………
検察:家で飲むことは問題ない。そこでなんで飲みに行ってしまうの?
被告:ツケ払いできるようお店にアレして
検察:ツケ払いできないのわかるでしょ。なんで止められない?
被告:うん…そうですね。なんつーのかな、まあ酒のせいにしちゃいけないんですが、私の心の弱さというか…
被告人質問が終わり、裁判官から「何か最後に言っておきたいことはあるか?」と問われた被告。
「被害にあったお店の方に大変申し訳ないとおもっております」
と神妙に謝罪した。
その言葉に嘘はなさそうだと感じられた。法廷では終始真面目そうだった被告の様子を見ると、酒の怖さを改めて認識させられた。
検察は懲役3年を求刑。
判決は年内に言い渡される予定だ。