性犯罪の被害者に深く刻まれた心の傷…ある事件の被害者「ほかの人に私のようにつらい思いをしてほしくない」…法廷で訴えた意見陳述全文【独自】

2025年になり1か月以上が過ぎたが、去年と変わらずさまざまな事件が紙面やテレビをにぎわしている。

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道内では、さまざまな事故や、詐欺事件などが変わらず発生しているが、中でもなくならないのが強制わいせつ事件や不同意わいせつ事件などの性犯罪だ。

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被害者の人権を無視し自分勝手な犯行に及ぶこれらの行為は言うまでもなく重大な犯罪である。しかしながら多くの場合、被害者保護やプライバシーの観点から被害者への取材は敬遠され、被害者の思いを私たちが知る機会は少ない。

また、不同意わいせつ事件は、その悪質性にも関わらず、ほかの刑事事件に比べ量刑が少ない事案も複数あり、起訴から判決まで詳細に報道されることはあまりない。このため、勇気を出して「被害者参加制度」で法廷に立った被害者の思いが広く届けられないジレンマも抱えている。

そして道内では最近、医師や歯科医師による患者に対してのわいせつ事件も複数発生している。医療行為を行う者としての信頼性を利用した悪質な手口だ。

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筆者は先日、歯科医師による不同意わいせつ事件の裁判を傍聴し、被害者参加制度で法廷に立ったある女性の意見陳述を聞いた。

初めて法廷に立ったであろう彼女は、臆することなく、丁寧に自分の思いを裁判官へ伝えていた。

彼女は大学生。子供のころから通っていた歯科クリニックで、ベテランの男性歯科医師によるわいせつ行為の被害にあった。診療中に体を触られたのだ。悩んだ末に被害届を出したのは、声を上げなければ自分以外の被害者も出てしまうかもしれないという思いもあったと話していた。

廷内に響く被害者の切実な声 性犯罪が被害者にもたらすものとは

彼女の姿勢に感銘を受けた私は、弁護士を通じて本人とご家族に連絡を取らせていただき、裁判で意見陳述した内容について公開する許可をいただいた。ここに、ほぼ原文のまま、掲載したいと思う。

………………


あの出来事については、明らかになっていることと思いますし、本来は言葉に出すことも嫌な出来事ですので、ここでは説明しませんが、とてもとても辛いことでした。

このことを母に話すことも、警察に相談に行く時も、とても勇気がいりました。性犯罪の被害者は、自分が悪くないのにも関わらず、自分に何か悪いところがあったのではないか、こんなことを周りに言うことで自分はどんな風に思われるのであろうか、といった気持ちになることを、自分が被害者になって初めて知りました。

性犯罪は被害を受けたということを周りに話すだけでも勇気のいることです。被害を受けたとしても、言うことができない人が多くいると思います。実際に私自身も誰かに話すべきか、自分の中にしまい込んでおくべきか、とても悩みました。

また、性犯罪は被害者の心に深い傷として残ります。性犯罪はその後の未来にも大きく影響する重大な犯罪であると思います。

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当初被告人は容疑を否認…そのことによるインターネット上での二次被害

被告人が逮捕されたときには、ほっとした気持ちはありましたが、報道等で被告人が「一切身に覚えがない」と言っていることについて、大変傷つき、衝撃を受けました。

インターネットのニュースサイトのコメント欄に書かれているコメントにも、「本当は冤罪なのではないか、被害者の思い違いではないのか」という、被害者である私を否定しているように捉えられる書き込みもありました。

これらは被告人が罪を認めていないことを理由に、被告人の罪がないのではないかという推測からだと考えています。このコメントを目にした際に私は、なぜ被告人は私に被害を及ぼしたのに世間からは加害をしていないと推測されてしまうのか、その一方でなぜ私は非難されているのかと、精神的なショックを受けました。被告人が最初から罪を認めていれば、被害の他にもこんな想いをしなくて良かったのにと感じています。

「被害にあっているのは自分だけではないかもしれない」

一方で、ニュースサイトや SNS に投稿されているコメントには、私が被告人からされたこととほとんど同じような被害を訴えるコメントもあり、被害にあっているのは自分だけではないかもしれないことを感じました。

被告人は、歯科医師という立場を利用して、何人もの人に罪を重ねていたことも知り、今回勇気をもって被害届を出したことは、自分のためにも、今まで声を上げることができなかった他の被害者の方々のためにも、そして新たな被害者を出すことを防ぐことができたという点でも、本当に良かったと思います。

今回私が受けた被害を、たかが胸を触られただけだと言う人もいるかもしれません。

しかし、自分のプライベートゾーンを私の許可なく他人に触らせていいはずがあるわけがなく、被告人が私に行った犯罪は許せるものではありません。

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子どもの頃から、悪いことをしたら警察に行き、罪をつぐなうということが当たり前のことと思っていました。

しかし、私もそうでしたが、性犯罪では特に相談するということだけでも大きなハードルであり、警察に言うことも、ましてや被害届を出すということも、自分が悪くないのにも関わらず精神的に辛く感じてしまいます。

二度と同じような事件が起きてほしくない

また、私は今大学生で、勉強やサークル活動などに力を入れています。しかし、今回事件が起こり、慣れないことに関与することで、日常生活に大きな負担が生じ、日々事件のことが頭によぎるようになり、心の底から学生生活を楽しむことができなくなってしまいました。

私のような辛い想いをする人がいなくなれば良いと心から願っています。

私は今、心理学を学んでいます。被告人が何人もの人に性犯罪を行っているということは、もう自分だけではやめられないのだと思います。反省する、もうやらないと誓うのみではなく、性犯罪者治療も必要なのではないのかと私は考えます。

再犯しないためにも、なぜ性犯罪に及ぶのか、まずはどうすれば自分をコントロールし、踏みとどまることができるのか。自分だけではなく、医師や専門家の力を借り、認知行動療法などの治療を行うことを強く願います。

………………

事件の裁判は終わり、被告人には執行猶予のついた有罪判決が言い渡された。有罪は有罪。罪の重さを常に感じて反省を続けてほしい。

…………

後日、彼女と彼女の母親は「さくらこ」に相談し、気持ちの整理をつけ、被害届を出すことが出来たと話してくれた。

「さくらこ」とは性暴力被害者支援センター北海道。性暴力の被害にあった方に対する電話相談や医療支援等をワンストップで行う機関だ。

https://sacrach.jp/

電話やメール、LINEで夜間・休日も相談に応じてくれる。いまもし、性暴力の被害に悩んでいる方がいるのであれば、一人で抱え込まず、相談してほしいと思う。

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この記事を書いたのは

HTB Court Watcher

元HTB報道部・社会班キャップ
SODANE編集部に在籍しながら、たまに趣味の裁判傍聴のため
札幌地裁・高裁に出没。傍聴する裁判は刑事・民事問わず。