「パワハラはあった」同級生が証言 江差看護学院”パワハラ自殺” 看護師になりたかった…⑩

「パワハラしかなかったです。あの学校は。」(友人)

2019年に北海道立江差高等看護学院に通う男子学生が自殺した問題。第三者調査委員会は、男子学生に対し教師による4件のパワーハラスメントがあったと認定し、学校の学習環境と自殺との相当因果関係を認めました。しかし、その後に遺族側が起こした裁判の中で、北海道側がパワハラを「全否定」する事態に。北海道と遺族の争いが続く中、同級生が新たな証言です。

「原因はパワハラ」同級生の訴え

「4月からは死なないことを目標に生きていくわ」

留年した自分よりも1年早く卒業する親友に宛てた手紙に綴られた言葉。
この言葉を記したおよそ5カ月後の2019年9月18日、
男子学生は22歳の若さで亡くなりました。

自殺でした。

<自殺した学生が同級生に宛てた手紙>.jpg

<自殺した学生が同級生に宛てた手紙>

看護師を目指し、希望に溢れていた彼の未来。
その未来は、なぜ絶たれてしまったのでしょうか。

「パワハラしかなかったです。あの学校は」(友人A)
「亡くなった以上は絶対、原因はパワハラなりあったと思う」(友人B)

友人たちが自殺の背景にあると訴えているのは「教師によるパワーハラスメント」です。

「先生も誰かをターゲットにして執拗に無視したり、理不尽な学校だったので何かあってもおかしくない」(友人B)
「みんな(教師の)顔色を伺いながらやっていた。ずっとあの雰囲気の中で、頼れる人がいなくなっていったら精神もすり減るのは至極当たり前」(友人A)
「緊張感がずっとある空間だったなと思います。この人(先生)に嫌われたら終わりだったという風に思う学生は多かった。みんなそう。指導をもらいに行くのが怖くなったり」(友人C)

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<自殺した男子学生の友人>

当時の学校の様子を「異常だった」と振り返る同級生たち。

男子学生が通っていた北海道立江差高等看護学院では2021年に教師による学生へのパワハラ問題が浮上。第三者による調査の結果、紋別市の北海道立紋別高等看護学院と合わせて11人の教師による53件のパワハラが認定されました。

この時、男子学生の自殺については被害の申し出がなかったとして調査されませんでしたが、当時の学院長が遺族の元を個人的に訪れ、男子学生にも教師からのパワハラがあったと謝罪。遺族の要望を受けて北海道が設置した新たな第三者委員会が調査をした結果、自殺した男子学生に対しても3人の教師による4件のパワハラがあったと認定され、学校の学習環境と自殺との相当因果関係があると認めらました。

「教員からパワーハラスメントを受けたことによって死を考えるようになったと認められる。多くの教員によるふるい落とすような教育というものに、ずっと徐々に精神的な負担を募らせていったのだろう。」(第三者調査委員会・須田布美子座長)

これを受け、北海道の担当者や鈴木知事は遺族に謝罪しました。

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<謝罪する鈴木直道知事(2023年5月)>

二転三転する北海道の主張

しかし、その後事態は急展開を迎えます。

2023年10月、遺族との示談交渉の中で北海道側は、「最終的な要因は確定されておらず、ハラスメント行為が必然的に自死に直接結びついたとは言い切れない」として自殺の賠償には応じない考えを示したのです。

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<北海道が遺族側に宛てた文書>

さらに2024年12月、遺族側が起こした裁判の中で北海道側は第三者による調査は「必ずしも客観的なものではない」として「パワハラと認定された4つの事案はいずれもパワハラとはいえず自死との相当因果関係は認められない」との主張を展開しました。

そもそも2023年10月の段階では、賠償に応じない姿勢を示したものの「学生が教員から複数回にわたるハラスメント行為を受けたこと、また、留年という就学上の不利益を受けたことにより、精神的苦痛を被ったことは明らか」としてパワハラに対する慰謝料などを提示していたにも関わらず、裁判の中ではパワハラについても「否定」した北海道。

一方の同級生は「パワハラはあった」と断言します。

「人 殺しといて逃げんなって感じはします。パワハラは絶対にありましたね」(友人A)

<同級生で撮った写真(友人提供)>.jpg<同級生で撮った写真(友人提供)>

レポート提出 1分遅れ留年 「声が出なくなった」

北海道が裁判の中で「全否定」した教師による4件のパワハラ。

同級生の1人は、そのうちの1つ「提出が1分遅れたことでレポートを受け取らず留年させた」という事案を横で見ていたと言います。

「ギリギリ間に合ったんです。僕もその時、携帯の時計で確認して間に合うねと言って」(友人C)

同級生によると、時間には間に合っていたという男子学生の提出物。
しかし、教務室の時計は正確な時刻よりも進んでいたため、レポートを受け取ってもらえず男子学生の留年が決まったと言います。同級生は、この時の男子学生は声が出なくなるほど精神的に追い詰められていたと証言しています。

「間に合ったと思っていたのに受け取ってもらえなかったという悔しさもあって(自殺した男子学生の)声が出なくなった。それだけのストレスの負荷がかかっていたから、それでパワハラじゃないというのはどうなのかなと」(友人C)

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<第三者調査委員会の聞き取り記録(HTBの情報開示請求)>

一方でレポートを受け取らなかった教師は、第三者委員会の聞き取りに対し、教務室の時計は「ほぼ正しかった」と答えています。そして北海道側は、この事案がパワハラ認定されたことについて「1分であろうと提出期限に遅れたことは事実であるから、教員がレポートを受け取らなかったことは、職務を遂行しただけであって、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動ではない」として、パワハラに該当するものではないと主張しています。

北海道庁の“ガバナンス不全” 求められる説明責任

男子学生が自ら命を絶ってからまもなく6年。
二転三転する北海道の主張に鈴木知事はいまだ具体的な説明をしないままです。

(知事)「これは現在係争中の案件なのでコメントは控えたい」
(記者)「道の対応は本当に適切なものなのか知事の考えを自らの言葉でお話しいただきたい」
(知事)「係争中なのでコメントを控えます」

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<質問に答える鈴木直道知事(2025年5月9日)>

こうした状況に行政問題に詳しい札幌大学の武岡明子教授は、行政がはらむ機能不全を指摘しています。

「第三者委員会の報告書の内容に客観性がないというのであれば、どうしてそのような結論に至ったのかを(知事)自身の口で説明するべきだと思う。一連の道庁側の対応はとても不可解だし遺族に対しても不誠実だと思う。ガバナンスの不全などを強く印象づけるような対応というふうに受け取らざるを得ないので、やっぱり真摯に向き合って対応していただきたい」(札幌大学・武岡明子教授)

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<札幌大学・武岡明子教授>


厚生労働省は先の見えない不安・生きづらさを感じているとき、ひとりで悩まずに「いのちSOS」などで専門の相談員に相談してほしいと呼びかけています。
また、HTBでは、この問題について特設サイトを設置しています。
ご意見や情報提供をお待ちしています。

▼看護師になりたかった… 看護学院パワハラ問題特設サイト

https://www.htb.co.jp/news/harassment/

ご意見・ご感想・情報提供などお寄せください。

取材:HTB報道部 前田愛奈 / HTB社会情報部・喜多和也

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この記事を書いたのは

HTB・喜多和也

映画「しあわせのパン」の暮らしに憧れて北海道に来たパン好き記者。パンシェルジュ。
報道部記者として看護学院パワハラ問題や手話をテーマにしたドキュメンタリーを制作。
2024年5月~社会情報部イチモニ!ディレクター

▼朝Power!北海道の朝は「イチモニ!」
https://www.htb.co.jp/ichimoni/
▼北海道立看護学院パワハラ問題(第61回ギャラクシー賞 報道活動部門 奨励賞)
https://www.htb.co.jp/news/harassment/
▼ろう学校の手話教育をめぐる一連の報道(2024年民放連賞 放送と公共性 優秀)
https://youtube.com/playlist?list=PLzgdqs_0_Hlrr58tailwA9afa7MCRNO9Q&feature=shared