被害者の妻はショックで流産…連続窃盗の男 盗んだカネで1回10万円の風俗 証言台で涙する被告の元妻 〝子どもにやさしい人だった〟

男の髪は短く切りそろえられていた。折しも元妻は証人尋問で「被告に散髪代を差し入れした」と話していた。

被告人の男は力なく弁護士の前の席に座り、裁判が始まるのを待っていた。

証言中に嗚咽をもらす元妻 子どもにも妻にもやさしかったという被告人 それでも離婚を選ばざるを得なかった妻の思いとは

会社員だった被告人は去年から今年にかけて3件の家に侵入し、それぞれの家の中から現金などを盗んだ罪に問われている。被害額はあわせて145万6000円。また、このほか立件されていない2件、別の家にも侵入し犯行に及んでいた。

犯行時、結婚し妻と子ども2人と暮らしていた被告人。動機はなんだったのか。元妻の証人尋問と本人への被告人質問でその悪質さが浮き彫りになった。

元妻Aさんへの証人尋問

弁護士:被告人との関係は?

Aさん:元夫婦です

弁護士:離婚したということですね?

Aさん:はい

弁護士:結婚したのはいつですか?

Aさん:2018年の………涙………2018年の11月です

弁護士:被告人のどこに惹かれて結婚したのですか?

Aさん:おもしろくて、仕事ができて、やさしいところです。

弁護士:お子さんがいますよね。何歳と何歳ですか?

Aさん:5歳と2歳です

弁護士:被告人はお子さんに対してどのように接していましたか?

Aさん:怒るようなこともなくやさしく接していました。

弁護士:お子さんは被告人に対してどのように接していましたか?

Aさん:帰りが遅くなっても玄関まで迎えにいって「お帰り!」と言っていました。子どもにも私にも怒ったりすることはありません。

弁護士:収入源は?

Aさん:夫の収入と私のわずかなパート代です。

弁護士:夫の収入はどれくらいでしたか?

Aさん:18万円から20万円くらいです。

弁護士:足りていましたか?

Aさん:足りない時もあるので夫に日雇いの仕事もしてもらっていました。

弁護士:金の管理はどうしていましたか?

Aさん:すべて私がしていました。

弁護士:夫が自由に使える金は?

Aさん:必要な時に必要な分だけあげていました。

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子煩悩な夫…しかし、事件で分かった夫の金の使い道

弁護士:どんなことに使っていましたか?

Aさん:たばことガソリン代とお昼ご飯に使っていると思っていました。

弁護士:今回の事件で被告人が金を何に使っていたか聞きましたか

Aさん:携帯の通話履歴で知りました。

弁護士:何に使っていましたか?

Aさん:職場の友人とのごはんや風俗に行くための予約の電話をしていました。

弁護士:それを聞いてあなたはどう思いましたか?

Aさん:何も気づいていなかったので、とても傷つきました。

弁護士:風俗に行っていたことについて理由はなんだと思いますか?

Aさん:私が子ども優先にしていてコミュニケーションをとることが少なくなっていたからかなと思いました。

弁護士:離婚することを決めたのは?

Aさん:迷っていたんですが、逮捕されてニュースに顔と実名が出ていたので迷っていられないと思って。

弁護士:迷っていた理由は?

Aさん:私の個人的な気持ちで子供から父親を奪うわけにはいかないと思って。

弁護士:いまあなたはどのような収入で

Aさん:生活保護と私のパート代です。

弁護士:被告人が逮捕されてだいぶ経ちますが、子どもたちに変化はありますか?

Aさん:子どもたちはずっと帰ってくることを待っています…………涙…………『パパはいつ帰ってくの?』って…『もうちょっとだよ』と言い続けて4か月たちます。

(被告人の目に浮かぶ涙)

弁護士:今後被告人が社会復帰したらどうしますか?

Aさん:(子どもに)会いたいときに会わせてあげたいと思います。

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被告人質問 1回10万円の風俗を月数回…理由について「妻とのセックスレス」と話す被告

弁護士:事件当時、あなたは仕事についていましたね?いくらくらい月収はありましたか?

被告人:月20万円くらいです。

弁護士:自由に使える金はいくらでしたか?

被告人:必要なときにもらっていました。

弁護士:何に使っていましたか?

被告人:ガソリン代たばこ代昼食代です

弁護士:今回の犯行ですが、あなたはもらった金をどう使っていましたか?友人との食事は1回いくらくらい?

被告人:1万円くらいです

弁護士:何回くらい行っていましたか?

被告人:月2、3回です。

弁護士:風俗には1回いくらくらい使っていましたか?

被告人:10万円くらいです

弁護士:月何回くらいですか?

被告人:月1回、2回くらいだと思います

弁護士:悪いことをしているという自覚は?

被告人:ありました

弁護士:自覚があったのに、どういう理由でやってしまったのですか?

被告人:1回やったことで感覚がマヒしてしまったのかもしれません。

弁護士:あなたは(逮捕されていままで)4か月ノートを書いていた。自分がやったことについての原因をどう思っていますか?

被告人:妻のせいにするつもりはないんですが、妻との体の関係が全くなくて遊びにいきたいと思ってしまいました。

弁護士:風俗に行っていたのは妻との性交渉がなかったからですか?

被告人:はい

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被告人が盗みに入った住宅では 被害者の妻に悲劇が…

弁護士:今回被害者のかたにどのような被害を与えたと思いますか?

被告人:とても怖い思いをさせてしまったとおもいます

弁護士:それはどのように

被告人:一軒家をせっかく建てたのに、知らない人が入ってくる恐怖があると思います

弁護士:取り調べで、そのほかどういう被害があったか聞きましたか?

被告人:被害者の奥さんのおなかに実は赤ちゃんがいて流産してしまったと聞きました。

弁護士:どう感じましたか?

被告人:自分の妻も流産しているので…………涙…………

現金1万円の被害があった家では、被害者の妊娠中の妻がショックで流産していたという。盗まれた現金の額だけではわからない深刻な被害だ。被害について弁済したいと話す被告人だが、逮捕後会社をクビになり無職。返すあてはないに等しい。

検察官:今回の3つの事件、一番被害額が多くて95万円のお金を盗んだ。そして今年の3月、5月にも。「感覚のマヒ」とは何なんですか?どういうことですか?

被告人:遊びたいという気持ちと、こうやって拘留されないと思っていました

検察官:つかまらないと思っていたということ?

被告人:はい

検察官:それはなぜですか?

被告人:そのときは思っていなかったというか…

検察官:なぜですか?泥棒で捕まる人いっぱいいますよね?

被告人:はい…考えていませんでした。

検察官:犯行がバレないかなとか考えませんでしたか?

被告人:考えませんでした

検察官:1回10万円かかる風俗に使うなんてムチャクチャなことですよね?家族が悲しむとは思いませんでしたか?

被告人:……

検察官:あなたのノート見ると、被害者をみかけてついて行っていますよね?これってなんですか?

被告人:自分と同世代の人が「いい家に住んでいるな」と思って。

検察官:なんでそれが泥棒につながるの?

被告人:そのときは興味本位で家が見たいと思って

検察官:泥棒するための下見とかしてたんちゃうかって思われそうな行動しちゃって分かりますか?

被告人:はい

検察官:後悔されてることはすごい伝わるんですけど、ただちょっとなんか怖いのがね。あなたの自制心で抑えれる問題かどうかと。もうしないと言い切れますか?

被告人:家族と会えないつらさを知ったので言い切れます。

…………

そのあと裁判官の被告人質問が続き、被告人は数年前にサラ金で借りた金が返せず自己破産していたことが明らかになった。誰からも金を借りれなかった被告人。しかし、使っていた金は風俗代などであり、理由にはならない。

…………

この日、裁判は結審。4か月反省のためのノートを付け続けたという被告だが、法はどのような裁きを下すのだろうか。判決は3週間後にいいわたされる。

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この記事を書いたのは

HTB Court Watcher

元HTB報道部・社会班キャップ
SODANE編集部に在籍しながら、たまに趣味の裁判傍聴のため
札幌地裁・高裁に出没。傍聴する裁判は刑事・民事問わず。