逮捕された当日に妻の妊娠が発覚 仮出所中の事件で実刑が確実の「常習累犯窃盗」犯の男 妻は法廷で涙し「それでも支えたい」と話すが…
2025.10.23
刑法犯の裁判では被告の家族が証人に立つことがある。傍聴したことがある人ならわかると思うが、被告のために家族が涙する様子を目の当たりにするのは、とてもつらい瞬間だ。今回の裁判も例にもれずそのような場面に立ち会うこととなった。
前科7犯 万引きする気持ちが抑えられない男 スーツを一式 大胆にもエコバッグに入れて逃走
男は拘束された状態で入廷した。
年齢は40代。身長は高く、ワイシャツにスラックス姿。頭は丸刈りで黒縁メガネをかけている。犯行当時はタクシーの運転手になったばかりだったという。男が問われているのは常習累犯窃盗の罪。通常の窃盗より重く、10年以内に3回以上、窃盗などの罪で実刑を受けている場合に適用される。直近で逮捕されたときの犯行内容は以下の通りだ。
・今年4月、昼食を買いに入った札幌市北区内の商業施設で、スーツ(9900円)をエコバッグに入れ乗用車で逃走
・店を出る際に防犯ゲートが発動し、駆けつけた警備員が逃走する車のナンバーを警察に通報、逮捕に至る

起訴状などによると、男は当時タクシー会社に入社したばかり。研修のためスーツが必要だったが持っていなかったという。たまたま入った商業施設で自分のサイズにぴったりのスーツをみつけた男は、大胆にもスーツを一式、エコバッグに入れて逃げた。
廷内の片隅では、女性がうつむいたように座っていた。証人尋問となり、女性は席を立ち、証言台へ。彼女は男の妻だった。
「離婚は?」「考えていません」【被告人の妻の証人尋問】更生を支えたいという妻の覚悟

弁護士:あなたと被告人との関係は?
妻:妻です
弁護士:いつから婚姻関係に?
妻:2022年の9月です
弁護士:被告人が前の事件で保釈されているときに?
妻:はい
弁護士:そのあと収監されましたよね?
妻:はい
弁護士:面会には行かれましたか?
妻:行っていました
弁護士:頻度はどれくらいですか?
妻:毎月2、3回は
弁護士:釈放されてからは?
妻:一緒に生活していました
弁護士:あなたのお子さんとの関係は?
妻:仲良く暮らしていました
弁護士:被告人がまた事件を起こさないよう気をつけていたことはありますか?
妻:仕事の日もなるべく一緒に行くようにして、お財布の中がなくならないようにしていたり、商業施設には一緒に行き、支払いはなるべく私がしていました
弁護士:万引きしないように気を付けていたということですね
妻:はい
弁護士:今回被告人が逮捕されたことを聞いてどう思いましたか?
妻:気を付けていたつもりだったので驚きましたし、信じられない思いでした
弁護士:事件の原因になるようなことは
妻:主人とはよく話し合っていましたし、私の子どももなついていましたし、私も主人との子どもをさずかってしあわせになるところでした
弁護士:妊娠されているんですね
妻:はい
弁護士:彼が何回も窃盗をしてしまうのはなぜだと思いますか?
妻:私も結婚してから彼の更生の力になれればと思って、専門家のかたに話を聞いたりしました。先生から彼はPTSD の傾向があるということは教えていただいて。それもそうかもしれませんが、小さい頃からの生活の中で、今まで支援を受けて来られなかったというのが本当のところなのではないかと思っています
弁護士:離婚は考えていない?
妻:考えていません
弁護士:被害者、そして被告人の勤め先についてはどう考えていますか?
妻:被害者のかたには大変なご迷惑をおかけして申し訳ないと思っております。勤務先のかたには大変よくしていただいていたのに大変申し訳ないと思っております
弁護士:最後に被告人に話したいことはありますか?
妻:私と子どもたちとみんなで一緒に住んでまだ短いんですけど、本当に更生するために家族みんなで協力していきたいと思います。被告人にはしっかり反省してもらいたいと思います
「妊娠がわかったのは?」「…北警察署で分かりました」【被告人の妻の証人尋問】検察官の質問に…

検察官:ちょっといくつか教えてください。あなたは旦那さんは以前に刑務所に入る前も一緒に住んでたんですか?
妻:いいえ
検察官:ということは、以前の罪で刑務所から出てきてから一緒に住みだしたということですね?
妻:はい
検察官:妊娠したのがわかったのはいつですか?
妻:(被告人が)つかまった当日に分かりました
検察官:つまり捕まった後ということですね
妻:北警察署にいたときに分かりました
検察官:被告人との生活ですが、お金の面ですけど、余裕はあったんですか?カツカツでしたか?
妻:カツカツというほどではなかったと思います。主人も少しずつお給料をいただいていたので、お金に余裕がなくて、
検察官:今回の問題になってるスーツ代 9900円ですけど、
妻:はい
検察官:全然出せたってことなんですね。そしてこれは「奥さんの監督が足りない」ということを言いたいんじゃないですけれども、純粋に疑問として聞きたいんですけど、奥さんはさきほどから自分の監督というか見守りが足りなかったみたいなことをおっしゃっていましたけど、もうこれって本人の問題でしょ?って思うんですけど、奥さんとしてはまだ何か足りないと思うことがあると考えているんですね?
妻:一緒にいる時間をもっと共有したり、お金の共有、「もっとこれくらいほしかった」とか、そういうことをもっと話せばよかったと思っています
検察官:以上です
…………
証人尋問が終わり、妻は傍聴席へと戻った。そして、被告人質問が始まった。
「ちょうどよいサイズがあったから」スーツを盗んだ被告 傍聴席で涙をぬぐう妻 弁護士「あなたは社会のルールを守れない人なんですか!」

弁護士:今回の被害店舗には頻繁に行きますか?
被告:何回か行ったことがある程度です
弁護士:もともと買い物に行く予定だった?盗みに行く予定だった?
被告:もともとは買いものに行く予定でした
弁護士:もともとは?なぜ現場で万引きしようと思ったのか教えてもらっていいですか?
被告:研修で使うスーツが必要で、ちょうどよいサイズのものがみつかったので
弁護士:「みつかったので」?なぜみつかったら盗んじゃうんですか?
被告:なかなか私のサイズに合うちょうどよいものがあったので
弁護士:買おうとは思わなかった?
被告:足りなかったので
弁護士:そのとき財布にはどれくらいあったんですか?
被告:7000円くらいだと思います
弁護士:スーツが9900円だから足りない、でもほかの日に買おうとかいう選択肢はなかったんですか?
被告:そのときは考えられなかったです
弁護士:逃げてから捕まるまで時間ありましたよね?誰かに相談しようとか思わなかったですか?
被告:相談することはできたのですが、失うのが怖くてできませんでした
弁護士:失う?別れることになること?
被告:はい
弁護士:当時の生活には満足していた。そんな中でもやっちゃった。これまで何回も捕まっていますよね?
被告:はい
弁護士:起訴は何回目ですか?
被告:4回目です
弁護士:前回もそうですけど、仮出所中のことですよね?どういう生活をしていたんですか?
被告:妻と子としあわせに暮らしていました
弁護士:仕事はどうでしたか?
被告:二種免許も取らせていただいて、いい環境で働かせてもらっていました
弁護士:やり直したい気持ちはあったんですよね
被告:はい
弁護士:じゃあなぜしたんですか?あなたは社会のルールを守れない人なんですか?
被告:そんなことはないです
弁護士:人をなぐったりしますか?
被告:ないです
弁護士:飲酒運転したりとか
被告:ないです
弁護士:なぜ窃盗だけやってしまうんですか?
被告:自分の意志の弱さだと思うんですけど、お医者さんの話を聞くと「クレプトマニア(「窃盗症」や「病的窃盗」)」とか病気とかもあるのかなと思っています
(妻 傍聴席で涙をぬぐう)

弁護士:医師のプログラムやカウンセリングは行ったんですか?
被告:行けずじまいになってしまっていました
弁護士:自分が窃盗を繰り返してしまうことに対して認識が甘いんじゃないですか?
被告:はい
弁護士:クレプトマニアかどうかは別として、きちんとやっぱり専門家の人に自分がなぜこんなに窃盗を繰り返した
被告:はい
弁護士:今回を最後に、絶対に犯罪を起こさないと誓えますか?
被告:はい
………続いて検察官が質問に立った
検察官:被害にあった商業施設にはスーツを買おうと思って入ったのですか?
被告:当日はスーツ目的ではなくて、買い物目的です
検察官:何を買おうとしていたのですか?
被告:お昼ご飯です
検察官:フードコートとかに行こうとしていたのですか?
被告:はい
検察官:なぜエコバッグを持って行ったのですか?
被告:行くついでに晩御飯の食材などあればと思って
………
検察官:タクシーで1回いくらくらいもらえるんですか?
被告:だいたい日給で1万円前後かなというところです
検察官:となると今回のスーツは1日原働いたら買えるんだ
被告:はい
検察官:家にはいくら入れていたのですか?
被告:入れていたというかいつも共同で
検察官:金は自分で管理していたということですか
被告:はい
検察官:多分みんな聞いてることになっちゃうんですけど、9900円のスーツのためにね。なんでそこでなんかこう、「馬鹿らしいな」とか、「こんなことしてもしょうがないな」っていうこと考えらんなかったんですかね
被告:自分の体のサイズが大きいということもあって。スーツを探していたんですけど、なかなか自分に合うものがないっていうのって、自分の中でちょっと焦ってた気持ちがありまして
検察官:何度も捕まって刑務所に行っているでしょ?あんな刑務所なんて楽しくないでしょ?
被告:当時はスーツがみつかったことの焦りで考えられませんでした
検察官:さきほどの奥さんの証言を聞いてどう思いましたか?
被告:感謝すると同時に申し訳ないと思いました
検察官:以上です
………………
自分に合うサイズのスーツが見つかって「ほかの人に買われてはいけない」とパニックになったと話す被告。個人的には納得しづらい理由だが、いずれにしても罪の意識が欠如していたとしか思えない行動だ。
最後に被告人質問を行ったのは裁判官。しかし、その質問の途中、突然弁護士が強く被告を諫める場面があった。
「なるべくじゃダメなんです!あなたは店に入ったらやるんだから!絶対入らないようにしなきゃ!」
裁判官:スーツを買うのに手持ちのお金が足りなかったということですけど、奥さんにちょっと電話するなりして「ちょっとお金が足りないんだけど」って相談はできなかった?
被告:冷静に考えれば当然できた中でもあったと思いますけども、この当時は先ほども言いましたように、偶然見つけて。もし今このタイミングを逃しては大変だっていう風に忘れてしまって
裁判官:会社の研修のために必要だということですけど、会社の人にいうことはできなかった?
被告:冷静に考えていたら言えたと思います
裁判官:その別の行動の選択肢っていうのがもう少しきちんと冷静に考えられたりとかなることですかね?
被告:はい
裁判官:スーツのフロアは食品や日用品のフロアではないですよね?
被告:そうですね
裁判官:なぜ紳士服のところに行ったんですか?
被告:先に飲食から回って、スーツのことを思い出して行ったということです
裁判官:こういう大きいスーパーだとなんでも売っていますよね。だから必要ではないものも目に入ってしまう。一人でこういうところに入らないようにしないといけないのではなかった?
被告:そういうことはもちろん考えていました。仮出所したあとは妻の協力もあって
裁判官:こういうことを繰り返さないためには、今後治療するとはいっても、日ごろの生活が直らないとどうしようもないですよね。何か具体的に考えていることはありますか?
被告:はい 気を付けることは、なるべく商業施設に1人で入らないようにして、所持金が少なくならないように金銭管理して、買い物をしたらレシートを渡すという流れにして、それでもやめられない場合は専門家の協力をもらいたいと思います
…………
裁判官の質問が終わると同時に、弁護士が挙手した。そして再び被告に対し、厳しく問い詰めた。
弁護士:いま「なるべく」って言ったけど、甘いんじゃないの!?「なるべく」じゃないですよね?あなたは商業施設に入ったら、やるんだから!徹底できますか?
被告:はい
弁護士:奥さんナシで商業施設に入らないようにできますか?
被告:はい
……………

弁護士から強い口調でたしなめられた被告は力なく元の席へ戻った。
裁判は結審し、検察側は拘禁刑4年を求刑。弁護側は「寛大な判決」を求めた。
いずれにしても執行猶予はつく可能性は低く、実刑判決がいいわたされる予定の被告。
妻のおなかのなかにいる子どもと会えるのは、面会の時ということになりそうだ。
