ラジオから聞こえる“穏やかな声”の裏側。日本道路交通情報センター「放送員」の知られざる激務に密着

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「日本道路交通情報センターの吉田がお伝えしました。」

北海道のドライバーなら、ラジオから聞こえるこの落ち着いた声に、運転中の安心感をもらっている人も多いだろう。道路の混雑、事故、天候による路面状況など、刻一刻と変わる情報をリアルタイムで届けてくれる「日本道路交通情報センター(JARTIC)」。

その“穏やかな声”が、どのような現場から発信されているのか。その知られざる「舞台裏」に密着した。

24時間監視体制「交通管制センター」の隣

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番組のカメラが向かったのは、札幌市にある北海道警察本部の建物。

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その一角に、北海道の交通の中枢を担う「交通管制センター」がある。

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巨大なモニターには札幌市内の詳細な地図と、道内各地のカメラ映像が映し出され、高速道路や一般道の状況が24時間体制で監視されている。

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そして、今回密着した「日本道路交通情報センター(JARTIC)北海道支所・札幌センター」は、この管制センターの隣に位置する。警察の管制センターから最新の交通情報が直接入り、それを加工してメディアを通じて発信する最前線だ。

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オフィスでは、複数のスタッフがモニターとにらめっこし、電話対応に追われている。壁には道内全域の地図が貼られ、その奥には放送局ごとに分けられた4つの小さな「ラジオブース」が並んでいた。

18年のベテラン放送員・吉田ともみさん

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この日、カメラが追ったのは、放送員歴約18年のベテラン、吉田ともみさん。彼女もまた、あの“穏やかな声”の持ち主の一人だ。

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「もともと声で誰かに何かを伝えたいという思いがありました」

吉田さんは、もともと道警本部で受付の臨時職員として働いていた。その時、新聞でJARTICの「アナウンサー(放送員)」の求人広告を見つけ、応募したのがキャリアの始まりだ。

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「やはり道路を覚えることが一番大変でした」

道内の複雑な国道、道道、峠、インターチェンジの名前と位置関係をすべて頭に叩き込むことが、この仕事の第一歩だった。

「放送員」の仕事は、話すだけではなかった

「放送員」という名前からは、マイクの前に座って原稿を読む姿を想像しがちだ。しかし、その実態は「情報収集」「分析」「原稿作成」「機材チェック」「電話対応」まで、放送に関わるすべてを一人でこなすマルチタスクの専門職だった。

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吉田さんの手元には、放送で読み上げるための「付箋(ふせん)」がある。これはすべて彼女の手書きだ。

「今まさに入った情報ではない(常に発生している)通行止め情報を付箋にまとめて書いています。秒数に合わせて短くしたりとか、自分で手書きで書いています」

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管制センターや各所から入る膨大な情報の中から、人命や安全に関わる「最優先の情報」を瞬時に取捨選択。与えられた放送時間(時には数十秒)に収まるよう、情報を削ぎ落とし、的確な言葉で原稿を組み立てる。

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さらに、その作業中にも、一般ドライバーからの問い合わせの電話が鳴り響く。「お客様、ただですね、冬の交通規制のために夜間通行止めになりまして…」。彼女は、原稿作成の手を止め、受話器を片手に、今度は「声の窓口」として冷静沈着に対応する。

準備時間わずか1分。放送ブースを駆け抜ける「戦場」

番組が密着した午後の時間帯、吉田さんの業務はまさに「戦場」と化す。

午後4時31分【1回目・A局】 「放送中」のランプが点灯したブースで、1回目の放送。 「高速道路の状況です。札樽道(さっそんどう)の上り線は札幌北インターの出口で混雑しています」「国道5号線の稲穂峠は雨が降っていて路面は濡れています」 冷静に情報を伝え終えると、すぐにブースを出て、慌ただしくデスクに戻る。

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午後4時49分(放送終了18分後) 「ホッとするのも束の間」、今度は「高速道路 事故情報」の新たなデータが飛び込んできた。「路肩停止なので、走行に支障はないかなと思われます」。即座に情報を分析し、次の放送内容を組み立て直す。

午後4時59分【2回目・B局】 1回目の放送からわずか28分後、今度はB局のブースへ。 「高速道路は道東道の下り線が工事のため渋滞しています」

そして圧巻は、この直後だった。

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午後5時00分【準備時間は1分】 次のC局での放送時間は、午後5時1分。B局の放送を終えた吉田さんに与えられた「準備時間はわずか1分」だ。

吉田さんは原稿と水筒を掴むと、文字通り「走って」B局のブースを飛び出し、廊下を挟んだ向かい側のC局のブースへ駆け込む。

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「はい、吉田です!お願いします!」

息を切らす間もなくブースの扉を閉め、マイクの前に座ると同時に、スタジオの「放送中」ランプが点灯した。

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午後5時1F分【3回目・C局】 「……路面が一部アイスバーンになっているのは、国道39号線の石北峠、273号線の三国峠・浮島峠です」

先ほどまで廊下を走っていたとは微塵も感じさせない、いつも通りの落ち着いたトーンで、最も危険な路面情報を的確に伝えていく。

「ありがとう」の一言が、やりがいに

最も忙しい時間帯の放送ラッシュを終えた吉田さん。なぜ、これほどの激務を続けられるのか。彼女は「やりがい」についてこう語る。

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「お客様に『ありがとう。その情報すごく役に立ったよ』と言ってもらえることが、すごくうれしい。必要としている情報を伝えるということが、私にとって一番のやりがいです」

私たちが何気なく耳にしているラジオからの交通情報。その“穏やかな声”の裏には、ドライバーの安全を守るという強い使命感を胸に、1分1秒を争う現場で情報を集め、分析し、伝える「放送員」たちの、知られざる奮闘があった。

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この記事を書いたのは

SODANE編集部

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