札幌の劇団「弦巻楽団」の演技講座「舞台に立つ」の稽古場に潜入!劇団代表で演出家・劇作家の弦巻啓太さんや演技コーチの井上嵩之さんに企画の極意を迫る。

札幌市の劇団「弦巻(つるまき)楽団」が、市民を対象に行っている演技講座「舞台に立つ」が10年目を迎えたということで、稽古場に潜入して参加者の方や演技コーチの井上嵩之さん、劇団代表で演出家・劇作家の弦巻啓太さんにお話を伺いました!

前編はこちら。前編では、講座生のインタビューを掲載しています。

https://sodane.hokkaido.jp/column/202303061500003155.html

弦巻楽団演技講座「舞台に立つ」とは

演技講座の1年間の集大成として劇場公演を行うプロジェクト。普段の仕事や学校、家庭と両立した創作を目指す。集団創作を大切にし、異なる背景をもつ参加者で話し合いながら名作戯曲に挑戦。

衣装や小道具、舞台美術、広報などのスタッフワークも自分達で取り組むため、公演制作そのものを学ぶことができる場としても評価されていて、これまでの参加者数は200名を超える。

IMG-8668.jpg

(稽古のようす)

年齢・職業・演劇経験の垣根を超えて作品創作に取り組み、本格的な演劇体験ができることに定評のある弦巻楽団演技講座。2022年度3学期の発表公演は、シェイクスピアの傑作喜劇『ヴェニスの商人』を上演するとのこと!

『ヴェニスの商人』とは

イタリアの都市・ヴェニスに住むバサーニオは、富豪の娘・ポーシャに求婚するための資金が欲しく、商人であるアントーニオに相談する。全財産を商船に乗せていたアントーニオは、やむを得ず、ユダヤ人の金貸し・シャイロックから借りることにする。日頃から差別的な扱いを受けていたシャイロックは、ここぞとばかりに「無利子で貸す代わりに、期限までに返済できない場合はアントーニオの体の肉1ポンドを差し出せ」と条件を出し、アントーニオはこれに応じる。

期限までに返せると確信していたアントーニオだったが、ある日、彼の商船が全て難破してしまったとの噂を聞く。いきり立ったシャイロックは、いよいよ彼の肉を求めて裁判を起こし——。

「世の人々はいつも虚飾に欺かれる。」

勧善懲悪の傑作喜劇として語られることの多い本作を、脚色をせずに再解釈。現代の日本に住むわたしたちに、シャイロックの叫びはどう映るのか。


このプロジェクトでは、いわゆるプロの小劇場演劇とは異なり、普段は学生や仕事をしている人々が、本業と両立させながら演劇に取り組み、シェイクスピアの作品を上演しているのです。

とっつきにくいイメージもあるかもしれない演劇が、なんだか少し身近に感じませんか・・?この「演技講座」は、いま記事を呼んでいるあなたにも、門戸が開かれているんです!前編では仕事や学業と両立して取り組む参加者の声をお届けしましたが、今回は演技コーチの井上さんと、このプロジェクトを率いる弦巻さんのインタビューをお届けします。

演技コーチ井上さん インタビュー

IMG-8652.jpg

(演技コーチ 井上嵩之さん(→GyozaNoKai→))

― 井上さんは今回演技コーチという形で関わられていますが、これまで演技講座には参加されていましたか?

これまでは、一般参加者に混ざって役者として公演に参加していました。

(※演技講座の公演には、劇団からオファーがあったプロの役者も参加しているそう。)

今回は別の公演と期間が重なってしまったのですが、演技コーチとしてのオファーをいただき参加しています。

― そこまで自分の活動が忙しいなかで参加されているということで、このプロジェクトに関しての個人的な思い入れなどはありますか?

とにかく楽しいというところに尽きます。普段は一緒にやることのない人たちとできるし、芝居のアプローチも違うので。いつもは本番に向かって真っすぐ稽古していくんです。でもこの企画では、うまく立ち行かないことだらけで…。小道具とか舞台とかも全部自分たちでやるというのが醍醐味。それは普段味わえない経験だから、面白いです。あと、札幌で定期的にシェイクスピアに取り組んでいるところはほとんどないんですよ。シェイクスピアの作品に取り組めるのは個人的にうれしいですね。

― 演技コーチはどのような役割なのですか?

主に身体をつかったゲームを参加者と一緒に行なっています。ゲームをとおして、自分が俳優として舞台に立つ上で大切にしていることを伝えたいですね。

― 井上さんはこのプロジェクトの作品について、どういうところをお客さんに楽しんでもらいたいですか?

演技講座は、誰でも演劇を楽しめるイベントだと思うんですよ。作品は現代と時代背景が違いますが、同じ札幌に住む人たちで作られているので、観る人にも身近に感じて、面白い。この企画を通して、演劇をもっと身近に感じてほしいです。未経験者もいるので、プロの演劇と比べるとクオリティは高くないかもしれませんが、それでもしっかりと面白い作品になっています。演劇は難しくない、シンプルに楽しめるものなんです。

― 最近、井上さんは→GyozaNoKai→を立ち上げられて、身体表現に取り組まれていると思うんですが、演技コーチの時にもそのような部分も指導されているんですか?

演技というと、しゃべることから入る人が多いと思うんです。体を動かして表現するという考えに至るまでは結構長く時間がかかるなと。例えば、こんな風に動いたらこういう風に見えるよねとか、動きで表現する「タネ」みたいなところは、伝えていきたいと思っています。

― なるほど。最後に演技コーチとしての思いを聞かせて下さい。

自分としては、評価は出したくないんです。あんまり知らない人が急に来て、評価されても萎縮しちゃうかなと思っていて。例えば、コーチみたいな人が「それいいね」って言ったら、別の人は悔しいって思うかもしれない。比較することで、自由な表現ができなくなるのはつまらないなと思うんです。評価は僕の仕事ではないなと。それよりも、例えば料理する時に、スーパーで買えない食材とか、見落としがちな食材とかを持ってって、「これ全部使っていいんだよ」っていう。「これでオリジナルのカレー作ってみようね」みたいな。そうやって取り組んでもらえる「タネ」を提供できればと思っています。

プロジェクトを率いる弦巻さん インタビュー

IMG-8654.jpg

(演出家・劇作家 弦巻啓太さん)

― この「演技講座」ですが、10年にわたって市民の皆さんが参加して続いています。素晴らしいことですね。

札幌ではそう多くない取り組みですので、ここまで続けられたことはありがたいです。

― 1学期、2学期、3学期という形で、毎年新しいメンバーでキックオフになる。そこは大変ではないですか?

大変ではありますが、2年目や3年目など、継続して参加してくれている人もいます。ただ、基本的には初めて参加する人に合わせて、毎年同じように内容を考えています。もちろん、そのとき集まったメンバー次第で、具体的なメニューや使用するテキストは変えています。なので、何度も参加してくれてる方は、もっと高いレベルのチャレンジをしたくなるのかなとも悩んだ時期もありました。ただその場合は、この講座じゃなくて、別の形で演劇に取り組んでもらえればいいかなとも思いまして。そんなに深く悩まないようにしています。

この演技講座は、プロになるための技術を教えるための講座ではないです。ただ、もし仮にプロになりたい!という風になった時にも通じる、大事なことに取り組んでもらおうと思ってやっています。

― 自分も社会人になって演劇をやりたいなって思ったことが、実はこれまでにありまして。ただ、演劇を深く追求しようとすると、時間が絶対的に必要だなと思っていまして。時間とクオリティは反比例するというか。どっちもを追求することが仕事をしながらだとできないのはかなり明確なので、そこがもどかしくなりそうだなと思って、結局今までできてないんです。ですが弦巻さんは10年この演技講座をやられてきて、いろんな参加者を見てきていると思うんですけど、演劇と私生活の両立については、どのように考えられていますか。

元々僕は、30年ぐらい前に、高校演劇同期の仲間と劇団を立ち上げました。これは弦巻楽団の前でなんですが、活発に札幌で活動して、そこそこ存在も認知されていました。

僕は、もともと演劇で生きていこうと高校生の時から思ってたので、大学も形だけ受験して、ずっと24時間演劇に打ち込んでたんですが、ただそれが実行できたのは、結局メンバーの中では僕だけだったんですよね。ほかのみんなは大学に行きながら演劇をやって、そのまま就職していってしまって…。

やっぱり、札幌で演劇を続けるっていうことは、演劇に24時間は費やせないんですよね。そういう経済状況が整ってないので。ただ、僕は若い時は割と苛烈に稽古していました。本番が近くなると、仕事よりも稽古を優先してほしいと伝えたときもありました。

― 今と真逆ですね!

当時はそれが当たり前だと思い込んでいたので、なかなかメンバーの気持ちも理解できなくて。お客さんにクオリティの高いもの見せて圧倒するには、そのぐらいやって当然だと思ってやってたんです。

ただ、そうなると、やっぱりみんな続かないんですよね…。自分はできるのに何で他のメンバーはできないんだろうとも思っていたんですが、僕自身も年を重ねる中で経験を積み、生活を削ってまで無茶しても、演劇は続けられないんだってことに気づいたんです。

話を戻すと、受講生の中にも、生活に縛られないでもっと演劇に打ち込みたいって思う人もいると思うんですけれど、演技講座ではそれを周りに求めすぎないでほしいと思っています。

この演技講座では、集団創作というものを心がけています。集まったみんなでものを作る。もちろんそのその中でも葛藤はありますが。ただ、僕は自分が演劇活動をする中で、自分よりレベルの低い人とはやりたくないみたいな態度の人がすごく昔から苦手でして。そう思うのもプロ意識の1つだとは思うんですけど、そんなことをしていたら、演劇を始めた人がみんな辞めてっちゃうよって思う気持ちがありまして。演劇を始めた人たちでも「このぐらいのことやれるぞ」みたいなものを、みんなで見つけていくことの方が大事じゃないかなと思っています。演劇は関わり合いで作っていくものであって、トップ技術を全て身に付けた人が1人いれば、クオリティが上がるっていうものではないので。

いまは、仕事をして社会的基盤をちゃんと持ちながら、それでも、余暇の時間で演劇に触れたいと思ってる人たちと演劇に取り組んで、それで一級品と言われるような、クオリティの高い充実した舞台を作ることの方が、僕にはこの札幌で演劇をやる価値や意味があると思っているんです。札幌で、例えば24時間演劇に費やせるプロを 10人東京から呼んできました。それで、いい芝居を作りました。ってなったとして…何の意味があるのかなって思うところもありまして。スペシャルな役者集めて、スペシャルな舞台を作るのはもうすでに多くのところが取り組んでいます。

それよりも、ここに集まってる人たちとか、自分の芝居作りに関心や興味を抱いてくれた人と一緒に作っていきたいっていう思いがあるので、そういう形で取り組んでいます。どうしても、参加者の中に仕事や子育てで参加率が低い人も出てくるんですが、そのメンバーとどうやって一緒に作っていくかを考えるのも含めて「集団創作」だと思っています。

―あくまで両立ですもんね、仕事も演劇もやるんだったら、ちゃんとやろうよって。

事情がある人とも一緒ににやるっていうことも含めて、演技講座だよと。楽しいところでもあるし、難しいところでもあるし。

ちょっと話が逸れるんですが、僕が30歳ぐらいの時に劇団をやっていて悩んでいたことがありまして。社会人に見える俳優が少ないんですよね。普通にその辺にいる社会人に見えない。みんな達者だけど、舞台でパフォーマンスするように訓練された人に見えてしまう。でも、東京とか盛んな現場でやってる役者さんには、本当にただのおっさんが出てきたみたいにしか見えない人もいて、この違いがすごく苦しくて。パフォーマンスとしては面白いけど社会人には見えない。でも、自分でも何が原因なのかは当時うまく言えなかった。

そんな中、市民劇のお仕事をいただいたときに、普段から演劇に取り組んではいない方がいっぱい参加されていて、そういう人たちの方がむしろ説得力がある演技ができるというのを目の当たりにした経験がありまして…。

やっぱり、演技は他人をやることなので、他人の人生にどれだけ触れてきたかっていうことが、プラスになると思うんですね。で、1番決定的だったのが、苫前町っていう市民劇がすごく盛んな人口3000人の町の方々と一緒に作品を作ったんですけれど、素晴らしい演劇だったと僕は思うんですね。それは、参加した皆さんも素晴らしかったし、場の空気がものすごく良くて。その町全体がそのお芝居を通して、繋がり合っている磁場みたいなのを感じました。でも、みんな普段は演劇ではない仕事をされていて、漁師さんもいるし、主役をやってくれた60歳間近だったおじいちゃんは、商工会議所の課長さんだったりとか・・・で、やっぱり社会人に見えるんですよね。だからこの演技講座でも、演劇だけをやってきた人が少ないので、いろんな身体性というか、体にまとっている歴史を、お互いに参加者同士で学んでほしいなと思ってます。

― 弦巻さんご自身も、学校の講師をされていたり、市民劇や自分の劇団もやったりと沢山取り組まれていますが、両立するために意識していることはありますか?
 

意識しているわけではないですが、自分自身のキャパは理解しようとしています。

僕はトップレベルの演劇人を生み出したいという思いよりは、裾野を広げたいっていう思いの方が強いんです。もちろん弦巻楽団の本公演は、トップレベルを目指して取り組んでいるんですけどね。

まずは自分の作品よりも「演劇そのもの」を楽しんでいただけるような観客を増やしたい、という気持ちもあって。

そのために、こういう演技講座で演劇に触れる機会を作ったり、シェイクスピア作品を観ていただいたりして、演劇そのものの有用性を伝えていく取り組みをおこなっています。学校など色々なところで講師をする機会もありますが、子どもたちには「プロはこうやるんだ」みたいなことは言わないようにしていますし、「どうしたらうまくいくかみんなで考えてみよう」といった促し方を心がけています。

― 観客を増やすっていうのは、なんかすごいしっくり来たというか。でも、そこに取り組むのってすごい大変そうだなと思いました。

札幌は、俳優個人のタレント性で作品を構築していく舞台が多いので、演劇はそうやって楽しむものだと思っている方も多い印象があります。でも僕は、お話の構成や戯曲の文学性が味わえる舞台で観客を増やしていきたいと思っています。だから、演技講座では僕の書いた台本は基本的に使いません。役者ではなく、演劇のファンになってほしいんです。演劇だけが持つ「演劇性」の面白さ、豊かさに少しでも触れられるような作品にしたいと思っています。

なので、自分の劇団の弦巻楽団でも、演劇だからこその良さを感じ取れるものを作りたいと思っています。面白い人じゃないと演劇ができないと思われたくない。まだまだうまく自分もうまく言語化できないし、弦巻楽団を観に来るお客様にどれだけ伝わっているかはわからないですけれど、そういった劇団の方針や精神が色濃く表れているのが、演技講座だと思っています。

ヴェニスの商人 

Venice_WEB_03 (1).jpg

公演概要

年齢・職業・演技経験の垣根を超えた、20名超の札幌市⺠によるシェイクスピアの傑作喜劇!現代の日本に住むわたしたちに、シャイロックの叫びはどう映るのか。

札幌を拠点に日本全国で上質な演劇作品を創造する一般社団法人劇団弦巻楽団は、主催事業・演技講座の成果発表公演「舞台に立つ」として、シェイクスピアの不朽の名作『ヴェニスの商人』を上演します。出演は、高校生から50代、演技初心者からベテラン俳優まで、さまざまな背景を持った演技講座受講生。 弦巻楽団演技講座は、いまだ続くコロナ禍において、普段の生活の一部に表現活動を取り入れることの価値を大切にしながら活動してまいりました。2022年4月から毎週稽古場に通い続けた講座生による、1年間の集大成です。

脚本:ウィリアム・シェイクスピア

翻訳:松岡和子

演出・指導:弦巻啓太

演技コーチ:井上嵩之(→GyozaNoKai→)

出演

阿部藍子、岡崎友美(浦とうふ店)、伊藤優希、斉藤法華、髙野茜、高橋咲希、高橋友紀子、種村剛、長澤小春、中島彩友、 宮下諒平(北海学園大学演劇研究会)、水戸部佳奈(劇団ひまわり)、宮脇桜桃、吉井裕香、来馬修平

秋山航也、田村嘉規(演劇公社ライトマン)、温水元(満天飯店)

阿部邦彦、佐久間泉真、相馬日奈(以上、弦巻楽団)

日時:2023年3月25日〜26日

25日(土)14:00/18:00

26日(日)13:00/17:00

※各開演時間。開場は開演の30分前。

会場:扇谷記念スタジオ・シアターZOO

住所:札幌市中央区南11条西1丁目3-17 ファミール中島公園B1F

料金:前売・予約ともに一般2,000円/高校生以下1,000円

チケット購入・問合せなどの詳細はコチラ!

https://note.com/tsurumakigakudan/n/na3fff2aad586

1

この記事を書いたのは

HTBスタッフS

HTBスタッフです。2019年1月に長年住んだ大阪から札幌へと移住してきました。
学生時代は演劇に熱中。今はサウナにも熱中。

合わせて読みたい