札幌で〝眼科ショッピング〟を繰り返した私。たどり着いたのはスーパードクターだった⑧ さっぽろ単身日記

(前回はこちら:札幌で眼科ショッピング〟を繰り返した私。たどり着いたのはスーパードクターだった⑦ さっぽろ単身日記
  https://sodane.hokkaido.jp/column/202306240730003501.html )

広い待合室にふかふかのソファ。完全予約制のため、座っているのは私だけ。
診察室に入ると、ベンチャー企業の社長風の医師が、言葉巧みに保険適用外の多焦点レンズによる白内障手術を勧めてくる。

「手術の名医がいる」と言ってA医師から紹介状を渡されたとき、宛名にあるF眼科のF医師に抱いた私のイメージはこうだった。


しかし、実際は180度違っていた。


最初にF眼科を訪れたのは3月初め。
札幌の中心部から地下鉄で10分ほどの駅で降りて5分ほど歩くと到着した。
耳鼻科や皮膚科、薬局などが並ぶ一角にある2階建てで、典型的な郊外のクリニックという感じだ。


予約制ではなかった。
診察開始は午前9時とホームページにあったので、どうせなら一番に診てもらおうと8時50分にはF眼科の前に着いた。


診療所に近づくと、奇妙な光景が目に飛び込んできた。


ここって、ラーメン屋?


なんと、眼科の入り口までに10人ほどの列ができているではないか。

しかも、すでに受付は始まっていて、中の待合室は満杯状態。
椅子に座れずに立っている人もいた。


玄関で案内をしていた若いスタッフに聞くと、診察開始の1時間以上前から患者が並び始めるので、30分前の午前8時半から受付を始めているという。

その盛況ぶりは、ディズニーランドの人気アトラクションレベルだ。

しかも、誘導の手際よさもディズニーランドに劣らない。

待合室の患者は次々と検査室に呼ばれていくので、回転が速いのだ。

受付で紹介状を手渡すと30分ほどで声がかかった。

検査室はまるで満員電車状態。

患者同士がすれ違うのもやっとという混み具合だが、多くのスタッフがテキパキと案内してくれるので、検査は流れ作業のようにスムーズに進んだ。

ただ、検査は終わってもF医師の診察までは1時間以上かかるという。


「近くにショッピングモールがあるので、みなさんそちらに行かれてますよ。診察時間が近づいたら電話でお呼びしますね」


なんと、外出できるというではないか。

この激混みにもすっかり慣れているという感じの職員の案内に従うことにした。


少し早いけど、昼飯にしようか。


ショッピングモールのフードコートで食事を済ませ、しばらく休憩していると、電話が鳴った。

戻ったF眼科の待合室は相変わらずの混雑ぶり。ただ、受付で名前を告げると10分ほどで診察室に呼ばれた。


将棋の羽生善治さん。

これが、スーパードクターF医師に対する私の第一印象だった。


やり手ベンチャー企業の社長、ではなかった。


「黄斑前膜ですね。硝子体手術と白内障手術を同時に行うことになります」


網膜の断面画像をモニターで見ながら、F医師は丁寧な口調で説明してくれた。


正直、F医師は白内障手術の名医とは聞いていたが、難しいと言われる黄斑前膜の硝子体手術までは期待していなかった。


ここで硝子体手術ができなくても、同じ名医つながりで、だれかいい医師を紹介してもらえるのではないか。


F眼科の診察を受けたのには、そんな思惑もあった。


なので、まるで硝子体手術もできるようなF医師の口ぶりは、ちょっと意外だった。

いま思うと、とても失礼な質問だったが、つい聞いてしまった。


ここで黄斑前膜の手術もできるんですか?


「わたし、網膜硝子体が専門なんです」


メガネ越しにこちらを見つめるF医師の目が、「俺に任せろ」と言わんばかりにきらっと光った。


なんと、ここで全部完結しちゃうじゃないか。


いや、待てよ。

安心するのはまだ早い。

F医師を紹介したのは、あのA医師だ。

高額な自由診療を勧めてくるかも知れない。

眼科医に対する不信感が残っていたからなのか。

まだちょっと警戒していた私は、F医師にあえて、こんなことを聞いてみた。


A医師から多焦点レンズの白内障手術を勧められたのですが。

やっぱり、多焦点がいいですか?


「いや、山崎さんの眼の状態だと多焦点はお勧めできません。見え方が不安定になるリスクがあります。強度近視なので、近くに焦点を合わせた単焦点がいいでしょう」


なんと、自由診療の多焦点ではなく、保険が適用される単焦点を勧められた。

もしかして、この先生は本当に信用できるかも知れない。


では、この質問にはどう答えるのか。

白内障手術は右目だけですか、両目ですか?

E総合病院で意味不明の回答だった質問を、あえてぶつけてみた。

「山崎さんは強度近視なので両目を同時に実施した方が、術後の見え方は安定すると思いますよ」


ですよね。


このとき、すでに私の心はF眼科で手術を受ける方向に大きく傾いていた。

ただ、右目の硝子体手術と両目の白内障手術を同時に、って、結構な大手術になってしまう。

E総合病院では1週間ほど入院って言われたけど、F眼科はどうなんだろう。


当然、入院になるんですよね。


「ここでは日帰り手術です。術後は車で送迎させていただきます」


日帰り?

できるんだ。

この一言で、手術への不安が一気に薄らいだ。

もうこの先生に任せよう。

その場で手術の予約をし、右目用と左目用の2通の同意書にサインした。


眼科⑧.JPG

手術の日は3月29日と決まった。


(続く)

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この記事を書いたのは

山崎 靖

元朝日新聞記者、キャリアコンサルタント、産業カウンセラー、温泉学会員、温泉ソムリエ

昭和40年生まれ
新潟県十日町市出身


コラム「新聞の片隅に」
https://www.asahi-afc.jp/features/index/shimbun

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