【今語りたいアノ人】日向坂46・佐々木久美、約束の地へ導いたキャプテンの軌跡と奇跡

 日向坂46(以下日向坂)は、3月30日(水)、31日(木)の2日間、同グループ初となる東京ドームにおいて「3周年記念MEMORIAL LIVE ~3回目のひな誕祭~」を開催した。ライヴそのものに関しては先日公開した総集編レポを是非ご覧いただきたいのだが、 (【日向坂46・東京ドーム2DAYS総集編レポ!】過去・現在・未来を描いた虹色の夢と約束)、この2日間のみならず、グループの歩みを常に中心になって支えてきたメンバーがいる。日向坂のキャプテン、佐々木久美(以下久美)だ。おひさま(日向坂ファンの総称)と交し続けた約束の地・東京ドームでのライヴを観るだけでも、彼女の存在感は絶大だった。改めて、尊敬の念と共に彼女の持つ魅力と軌跡に迫りたい。

グループを支え続ける確かな実力と胆力

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 今現在、日向坂という名前を背負ってマスメディアへの露出が最も多いのは彼女ではないだろうか。そこで見せる彼女の印象は、根本にある知性は感じつつも、明るい三枚目キャラクターに回っているイメージが強いかと思う。しかし、ステージでの彼女は違う。日向坂のキャプテンは兎にも角にも「頼もしい」。

 彼女がけやき坂46(以下ひらがなけやき)に加入し、アイドルとしての歩みを始めたのは20歳の時。一般的なアイドルのイメージからすると、遅いスタートだったと言っていいだろう。しかし、彼女は幼少期からのバレエ経験も生きているのか、基本的なダンススキルが初期の頃から非常に高い。吹奏楽経験も相まって、音ハメの感覚が非常に強いのだろう。日向坂以外の楽曲でロックやガールズヒップホップのジャンルに近いダンスを披露している姿を観ても、動と静の流れを音楽のグルーヴと共に忠実にキメている。その実力は最新シングル“ってか”のソロダンスでも存分に発揮されているし、高身長を生かしたダンスは迫力を生むだけではなく、しなやかさも非常に目立つ。“NO WAR in the future”や“こんなに好きになっちゃっていいの?”の中で見せるバレエ調の振りは勿論のこと、東京ドーム2日目に披露した彼女がセンターを務める“My god”のような楽曲において、指先までを丁寧に美しく演じるパフォーマンスの安定感はグループでも屈指のものだ。

 ただ、彼女の象徴的なパフォーマンスと言えばやはり“誰よりも高く跳べ!”で見せる姿だろう。ひらがなけやき時代の最初期に生まれてから現在に至るまで、ライヴ会場を最高の盛り上がりに導く楽曲だが、彼女はこの楽曲を文字通り中心に身を置いてリードする存在だ。まだまだ彼女たちの知名度が低くライヴ会場に味方が少なかった頃でも、臆することなくライヴ会場を掌握しにいく彼女のアジテーションは圧巻。泥臭く声を枯らしながらも観客を煽り続ける姿には、今ではキャリア以上の貫禄すら漂っている。初の武道館公演での同曲の煽りも鮮烈なシーンだったが、先日の東京ドームでの煽りも尋常ではなかった。独りドーム中央の高いステージに身を置きながら、その場所でさらに自らも跳びながら「跳べ!!跳べ!!」と叫び続けたシーンは、今後も語り草になるだろう。

 確かなパフォーマンスの実力を持ちつつ、まるでロックバンドのフロントマンのようにエモーショナルな煌めきをステージで放つ彼女。約束の地・東京ドームで見せたステージングは、彼女がキャプテンであるという事実を抜きにしても、1人のメンバーとしてグループに必要不可欠な存在であることを再確認するには十分過ぎるものだった。

佐々木久美だけの、そして日向坂だけのキャプテンシー

 佐々木久美が日向坂のキャプテンとなったのは、まだひらがなけやき時代のこと。グループが本格始動してからすぐのことではなく、加入から約2年ほどの月日が経った時の出来事だった。一方で、グループの中で最年長ということもあってか、自然とグループをまとめる立場になっていたことは初期から明白。キャプテン就任時に運営からサプライズで辞令を受け取った時のこと、佐々木美玲が「キャプテンになる前から、キャプテンでした」と語っていたように、様々な彼女たちのインタヴューやドキュメンタリー映像で自然と久美がリーダーシップを取る姿が登場していた。度々話題となる、TIF出演時にメンバーの危機感のなさと意識のズレに「みんな悔しくないの?」と涙ぐみながら叱咤をしたシーン、無謀と言われた武道館3DAYSに挑んだ際にスタッフに向かって「勝ちにいきたいので」と語ったシーンなどは、久美がキャプテンになる前のことだ。

 一方で、彼女は自らも語っているようにひらがなけやきに入るまではリーダーシップを取って動くタイプではなかったという。ドキュメンタリーで彼女はこのように語っていた。

 「今までそういう役割として生きてこなかったから、素に戻った時になんで私だけ?って思ったこともある。でも、やっぱりそういう役割を任せられているというのはありがたいことだし、自分の性格上キャプテンに向いてないなって思うことはあるけど、私キャプテンしてるなって思うこともないから。(中略)私だけ役割がないと思ってたし、キャプテンって期待してもらえるってのがわかった時に、私はこの役割を全うしようと思った。みんなが担っている役割の一つが(私にとっては)キャプテン。キャプテンになれてよかったなって思う」

 その想いの根源には、常にこのような言葉が登場する。「私はみんなが可愛くて魅力的なことがわかっていたので、このメンバーなら大丈夫だろうって思って。皆さんに早く魅力を知ってもらえるようにって想いでいっぱいで」「私にとって日向坂はみんながいる場所って感じ」「大好きなメンバーのためなら、どんなことでもしたいと思っています」ーーそう、彼女は何よりもメンバーへの想いが最初に言葉として出てくる。一番近くにいるメンバーの魅力に純粋に惹かれ、キャプテンという重責を果たすことも厭わず、その結果、メンバーそれぞれも彼女のために頑張りたいという相互関係が生まれているのだ。同じ1期生・加藤史帆との関係性などはまさに象徴的だろう。キャプテンとして引っ張る彼女の精神的支柱として、久美が少し疲れた様子など察すると、すぐにフォローしにいく姿はあまりにも日向坂らしい。

 圧倒的なカリスマ性でチームを最前線で引っ張る、いわゆるリーダー像とは少し異なるかもしれない(十分そのカリスマ性も備えているとは思うが)。しかし、日向坂というグループの持つ、共に歩みたくなるような暖かな魅力は、彼女の「前」に立つというよりも「横」に寄り添う形でのリーダーシップが生んだ部分は少なくないだろう。そもそも思い返してみれば、既に彼女は前人未到のことを成し遂げたキャプテンと言っても過言ではない。坂道グループという、現代のアイドル界においてある種約束された場所に身を置きながらも、アンダーグループ扱いという苦難からスターダムに這い上がったグループを支え続けてきたのだ。常に笑顔と感謝を忘れず、多くの絆を決して捨てることなく歩んできたグループの軌跡は、佐々木久美という人間そのものの軌跡と言っていい。

メッセンジャーとして、そして最前列へ

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 常にライヴにおいて、重要なMCを届けるのはキャプテンの役目。ライヴ終盤、必ず彼女はゆっくりと、ひとつひとつ言葉を噛み締めるように客席へ言葉を届けてきた。その度に驚くのは、一方的に用意してきた言葉を届けるのではなく、間違いなく彼女は客席の雰囲気を感じ取りながら言葉を紡いでいるということ。昨年秋に開催された『全国おひさま化計画2021』の最終公演のこと(総括レポはこちら)。本来東京ドームで行うはずだった『ひなくり2021』を幕張メッセで行うという発表をした際、彼女にしては珍しく言葉を詰まらせながら話す姿が非常に印象的だった。客席から滲み出た、東京ドーム公演という約束がまたしても延期となったことへの悲喜こもごもの雰囲気を感じ取ったのであろう。それでも、その決定の背景にある日向坂/おひさま全員で約束の地に辿り着きたいという想いを、彼女は真摯に伝えた。このような人間臭い部分があるからこそ、彼女の言葉はおひさまだけではなくメンバーにも深く響く。だからこそ信じていい。彼女が「ここからまた新しい場所を目指して、皆さんと一緒に夢を叶え続けていきたいなと思います」と明確に未来へ進もうとしていると東京ドームで語ったことを。

 日向坂というグループにとって、約束の地・東京ドームでのライヴはあまりにも重いもので、客観的に考えると此処がひとつの終着点に見えていた。しかし、はっきりと未来を見据えているという彼女の発言に加え、既に次作をその会場で発表したことでその終焉の予感も吹き飛んだ。しかも次作『僕なんか』において彼女は、日向坂に改名後、表題曲で初のフロントに立つ。再スタートと共に、未来へ進もうというタイミングにおける彼女のフロント入りは余りにもドラマティックと言わざるを得ないが、同時に非常に合点もいく。今最も支えるべき2人、復帰直後でセンターとなった小坂菜緒と初の表題曲でフロント入りとなった上村ひなのというメンバーの間に彼女が立つからだ。しかもその後ろには盟友、加藤史帆。これ以上の安心はないだろう。

 濱岸ひよりの不在という悲しき事態はあったが、それでも素晴らしき約束の地・東京ドーム公演の後には「キャプテン、ありがとう」という言葉がSNSなどに溢れた。きっとこれからも、彼女はメンバーとファンへの感謝の言葉を常に伝えながら進み、同時に感謝の言葉を花束のように貰い続けるだろう。佐々木久美という稀代のキャプテンと共に、日向坂の軌跡と奇跡は続く。
(カメラ:上山陽介)(テキスト:黒澤圭介)

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日向坂46「3周年記念MEMORIAL LIVE ~3回目のひな誕祭~」2022年3月30日,31日 東京ドーム セットリスト

2022年3月30日(水)

Overture
1. ひらがなけやき
2. キュン
3. 青春の馬
4. アディショナルタイム
5. My fans
6. 僕たちは付き合っている
7. ホントの時間
8. ひらがなで恋したい
9. ドレミソラシド
10. こんなに好きになっちゃっていいの?
11. イマニミテイロ
12. 最前列へ
13. 君に話しておきたいこと
14. ときめき草
15. アザトカワイイ
16. ソンナコトナイヨ
17. 期待していない自分
18. 君しか勝たん
19. 永遠の白線
20. 半分の記憶
21. ってか
22. NO WAR in the future 2020
23. 誰よりも高く跳べ!2020
24. JOYFUL LOVE

EN1. 約束の卵
EN2. 日向坂

2022年3月31日(木)

Overture
1. キュン
2. ドレミソラシド
3. おいで夏の境界線
4. キツネ
5. ハッピーオーラ
6. 窓を開けなくても
7. こんなに好きになっちゃっていいの?
8. 抱きしめてやる
9. こんな整列を誰がさせるのか?
10. My god
11. Dash&Rush
12. 未熟な怒り
13. この夏をジャムにしよう
14. Right?
15. それでも歩いてる
16. アザトカワイイ
17. ソンナコトナイヨ
18. 期待していない自分
19. 君しか勝たん
20. 永遠の白線
21. 半分の記憶
22. ってか
23. NO WAR in the future 2020
24. 誰よりも高く跳べ!2020
25. JOYFUL LOVE

EN1. 僕なんか
EN2. 日向坂
EN3. 約束の卵

日向坂46 リリース情報

日向坂46 7thシングル「僕なんか」

2022年5月11日(水)発売 7thシングル「僕なんか」
商品形態:
初回仕様限定盤TYPE-A CD+Blu-ray(SRCL 12140~1)税込1,900円(税抜1,727円)
初回仕様限定盤TYPE-B CD+Blu-ray(SRCL 12142~3)税込1,900円(税抜1,727円)
初回仕様限定盤TYPE-C CD+Blu-ray(SRCL 12144~5)税込1,900円(税抜1,727円)
初回仕様限定盤TYPE-D CD+Blu-ray(SRCL 12146~7)税込1,900円(税抜1,727円)
通常版(SRCL 12148) CD only 税込1,100円(税抜1,000円)
※初回仕様限定盤・封入特典:応募特典シリアルナンバー封入・メンバー生写真(各TYPE別22種より1枚ランダム封入)

「僕なんか」特設サイト: https://www.hinatazaka46.com/7th_single/
公式サイト: https://www.hinatazaka46.com
公式Twitter: @hinatazaka46
公式TikTok: https://www.tiktok.com/@hinatazakanews?lang=ja-JP
公式YouTubeチャンネル: https://www.youtube.com/channel/UCR0V48DJyWbwEAdxLL5FjxA

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この記事を書いたのは

黒澤圭介

音専誌『MUSICA』/MASH A&Rなどを経て、現在は札幌在住。某メディアに所属しつつ、ライターも気ままに継続中。
音楽・映画(特にSF)・小説・珈琲・特定のラジオを好みます。
情報発信はこちらより。

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