勤務先からの窃盗を繰り返す20代男「母が亡くなったので…」身勝手な動機 裁判官「執行猶予つく見込みはないと思いますよ」
2025.08.26
冷房が効きすぎる札幌地裁7階の小さな法廷でその男の裁判は行われた。
男は丸刈りで緑色のスエットにブラックジーンズ。5月に逮捕されたときは27歳だった。
男が問われている罪は以下の通り。
・2025年5月 当時勤務していた札幌市内のコンビニに合鍵を作って侵入し、現金99万円を窃盗
・2023年10月 当時勤務していた札幌市内の焼き肉店にドアを壊して侵入し1万5400円を窃盗
共通しているのは、いずれも「勤務先」での窃盗。しかも男には複数の前科があり、そのうちの一つも勤務先からの窃盗だった。
その執行猶予中に起きた今回の事件。被告人質問では、男は勤務先への批判と、動機とは言えないような動機を語り続けた。
被告「母が亡くなったから…」弁護人「どうしてそれが窃盗につながる?」
弁護人:起訴状に間違いはないですね?
被告:間違いないです
弁護人:どうして窃盗に及んだんですか?
被告:去年母が亡くなったのと、会社とのトラブルがあって、祖父母に仕事のこととか相談したんですけど、いい返答もなく「自分は一人だな」と思って「どっか遠くに逃げよう」と思ってお金を盗みました。
弁護人:お母さんが亡くなり、つらかったから?
被告:はい、そうです
弁護人:職場でも悩みがあった?
被告:はい、そうです
弁護人:祖父母へ相談した結果は?
被告:自分の求めていた答えと違っていて、右から左に受け流す感じで「気にするな」と
弁護人:気持ちに寄り添えてもらえなかったと
被告:はい
弁護人:どうしてそれが窃盗につながるんですか?
被告:どうしてつながる?どうしてつながる…
弁護人:誰にでもあるとは言わないですけど、多くの人に職場の悩みはあることだと思うんですよね。でも多くの人は窃盗をするかというとしないと思うんですよね。あなたは窃盗をしてしまった。なぜですか?
被告:一番は遠くに行きたいというのがありました
弁護人:自分の金でなく人の金で?
被告:そのときには金がなく、自分の中で精神的にもうやられたんで、そのトリガーというわけではないんですけど、仕事のことであったりとか、祖父母に話した結果が自分に寄り添う形で来るかなと思ったんですけど、そういう答えがなく、本当にもうどうでもいいやと思ったんで
弁護人:では焼き肉店での窃盗はどういうつもりで?
被告:アルバイトで雇ってもらって働いている中で時給や衛生面で許せないことがあったんですけど、何度も忠告しましたが、店長やオーナーが聞いてくれなかった。店長やオーナーが苦しめばいいと思って犯行に及びました
弁護人:イヤなことがあったら窃盗する人というふうに聞こえますが、違いますか?
被告:違います
弁護人:その理由は?
被告:えっと…うん、すぐ答えは出ないんですけど、実際に何もなかったら犯罪することはなかったと思います
弁護人:これまで何回窃盗していますか?
被告:今回ので2回、執行猶予中の罪で1回
弁護人:4回ですよね。あとホテルのドアを壊しています。窃盗は4回、5回目をしないためにはどうすればいいですか?
被告:えーと、そうですね…
弁護人:もうやらない気持ちはありますか?
被告:それははい
弁護人:どうしますか
被告:二度としないという強い気持ちを固く持って真面目に誠心誠意働いて弁償していきます
………
続いて、女性検察官が質問を始めた。
検察官「盗んだ金をデリヘルに使っていますよね」被告「ケータイの履歴に残っているのなら使ったのだと思います」
検察官:盗んだ金庫をなぜ公園のトイレに捨てたんですか?
被告:家から近かったんで
検察官:なぜトイレに?
被告:特に理由はないです
検察官:盗んだ金は生活費に使っていましたか?
被告:はい
検察官:なぜ生活費に使ったんですか?
被告:何か金に困っていたわけではないですが、自分の持っている給料と生活費のやりくりに使っていました
検察官:デリヘルにも使っていましたよね?
被告:ケータイの履歴に残っていたのであれば、使ったんだと思います
検察官:盗んだ金の使い方を客観的にみると、あなたのしたことっていうのはただ単に自分の好き勝手に使いたいだけのように見えますが違いますか?
被告:はい、違います
検察官:どう違いますか?
被告:僕は今回遠くに行きたかっただけだから、自分の気持ちを整理するために。網走や釧路に行って旅行したかったわけではなかったから
検察官:それは自分の金ですべきですよね
被告:はい、そうです
検察官:あなたが遠くに行きたいとかどうでもいいんですよ
被告:どうでもいい?
検察官:あなたが何をしようといいんだけど、人の金に手をつけたことが問題だとというのはわかる?
被告:はい
その後も、被告は焼き肉店に対して「弁償する気はあるけど、私の残業代も支払われていない」などと身勝手な供述を続け、検察官の質問は終わった。
そして、裁判官が短く質問を行った。
裁判官「雇う側からして、あなたを雇うと思います?」
裁判官:あなたのこの前の裁判は?
被告:前は現金30万円を窃盗して捕まりました
裁判官:働いていたところですか
被告:はいそうです
裁判官:弁償はしましたか
被告:祖父母が弁償しました
裁判官:働いていたところで盗みを繰り返していますよね
被告:はい
裁判官:母が亡くなったというのは窃盗する理由になると思いますか?
被告:思いません
裁判官:弁償の見込みは?
被告:働いて弁償します
裁判官:働くところのあてはありますか?
被告:ありません
裁判官:雇う側からして、あなたを雇うと思いますか?
被告:思わないです
裁判官:どうしますか?
被告:手当たり次第におねがいして働かせてもらうところを探すしかないです
裁判官:執行猶予中という重みをどう思っていますか?
被告:執行猶予中の重みは…そうですね。犯罪をすれば刑務所に行くことになるということです
裁判官:あなたはさきほど執行猶予が付いたら働くと言っていましたが、執行猶予がつく見込みはないと思いますよ
被告:はい
………
どこか反省が足りないように聞こえる被告人 求刑は
被告人質問が終わり、求刑の時間となった。
検察側は身勝手かつ自己中心的な犯行だとして、懲役2年6か月を求刑した。
一方弁護側は、社会で働いて弁償させるべきだとして執行猶予付き判決を求めた。
判決は翌週言い渡される。しかし、裁判官が「執行猶予が付く見込みがあるとは思わない」と話しているわけで、拘束が解かれることはなさそうだ。