お金がなくてもローンで400万円のクルマ購入 高級車が好きで…住宅の建設現場での窃盗繰り返す男
2025.10.02
その男は黒いスーツに黒いネクタイを着て、神妙な表情で法廷に現れた。肌は黒く焼けていて、表情からは心境は確認できない。問われている罪は以下の通りだ。
・2005年5月 札幌市白石区の新築工事現場内に侵入。充電式インパクトドライバーなど工具時価約75万8000円を窃取したもの
男は、窃取したこの工具類をリサイクルショップで売ろうとしたことがきっかけで逮捕されることとなった。
以上は起訴1件の分、このほかにもまったく同じような手口で窃盗を行い、それら2つの罪も問われている。そして被告には前科もあり、これも窃盗事案だった。
被告がこのような窃盗を繰り返すのは、〝自分の好きなものを買ってしまう〟という気持ちの弱さがあった。(本人いわく)
母親に対する証人尋問のあと、被告人質問が行われた。
盗んだ金で大阪へ旅行…借金・車のローン・消費者金融で支払いが増えていった被告
弁護士:最初に盗みをしようという風に思ったのはどのような理由からでしょうか?
被告:支払いでお金がなくなってきて、サラ金からも借りていて厳しくなっていて…
弁護士:仕事はしていましたか?
被告:しています。板金の仕事です。
弁護士:月の給料は?
被告:22~23万円です
弁護士:休みは?
被告:大体日曜日なんですけど、たまに日曜日も仕事があって、たまに週7働くことも。
弁護士:22万円は手取り?
被告:手取りです
弁護士:上下したりは?
被告:固定給です。残業代は出ないです。
弁護士:1日にどれくらい働きますか?
被告:8時から18時か19時です。
弁護士:消費者金融からどれくらい借りていましたが?
被告:2,3社から100万円くらいです。
弁護士:毎月どれくらい返済していましたか?
被告:1社あたり1万円か8000円くらいです。
弁護士:消費者金融以外はどんな支払いが?
被告:クレジットカードの支払いが4、5万円くらいです。
弁護士:クレジットカードの支払いはどんな?
被告:生命保険、車の保険、買い物です。
弁護士:そういった状況で生活費が足りなくなったときは、●●(被告の氏名)さんは今までどう生活されていたのですか?
被告:節約して切り詰めていました。
弁護士:そういう生活をしてこの事件に至る前にどういうような考えを持っていたんですか?
被告:前回も借金をしていたんですけど、その時、破産宣告をしようと思ったんですけどできなくて、お金が足りなくなってこういうことをしてしまっていた。
弁護士:毎月の給料だけでは足りなくなった?
被告:はい
弁護士:なぜ支払いがふくれていったのですか?
被告:ほしいものを買ってしまって支払いがふえていきました。
弁護士:何か欲しいものを買っちゃった
被告:はい
弁護士:転職は考えなかった?
被告:考えたんですけど「だめだ」と毎月いわれて「人手が足りないので困る」と言われて
弁護士:盗んだ工具はどれくらいの金額になったんですか?
被告:全部で40万円ちょっとくらい
弁護士:どう使いました?
被告:支払いのほうに回して、洋服を何点か買っていました。
弁護士:大阪に旅行行きましたよね?
被告:行きました。
弁護士:使うべきじゃなかったお金はなんだと思いますか?
被告:大阪の旅行と洋服…
弁護士:なぜですか?
被告:罪悪感を感じるからです
弁護士:なぜ罪悪感を感じるのですか?
被告:遊びに使う金だからです。
弁護士:前回の事件の手口は?
被告:その時も同じような手口です。
弁護士:なぜ同じようなことをしたんですか?
被告:さっきも言ったように支払いが増えて給料じゃやっていけなくなったからです。
弁護士:前回のとき反省しましたか?
被告:反省しました。
……
その後、弁護人からの被告人質問では、現在行っている短期バイトについて被告は答えていた。「すきまバイト」などと言われるアプリのサービスを使って仕事をしているという。
続いて、検察官が質問に立った。
実家暮らしで手取り22万円の被告 検察官「どうしてその金でやりくりできなかったの?」
検察官:あなたが今回の事件の前は板金屋なんで働くと22万円とか23万円とかもらえていたんですね?
被告人:はい
検察官:家にはいくら入れていたんですか?
被告:そんなに入れていません
検察官:いくらですか?
被告:決めていません
検察官:大体では
被告:1~2万円
検察官:じゃあ20万円は自由に使えるお金になるんでしょ?そのほかは生活に困ることはないわけだよね。基本的に住むところもあるし。どうしてその中でやりくりできなかったんですかね?
被告:好きなことに使ってしまって…
検察官:前回の事件も同じ理由ですか?
被告:同じです
検察官:どうしてお金の使い方がうまくいかなかったんですか?
被告:自分の金銭感覚がよくなくて
続いて裁判官が「私からも少し聞きますね」と質問を始めた。
高級車が好きな被告 裁判官「払っていけると思った?」
裁判官:捜査段階で話していたと思うんですけど、事件のときは借金が300万円。クルマのローンが200万円。消費者金融が100万円ということでしたが、間違いありませんか?
被告人:間違いないです
裁判官:先ほどの話では破産宣告をしないで、そのままずるずるいってしまったという話ですね?
被告人:はい
裁判官:破産しないまでも、債務整理しようとか考えたりはしませんでしたか?
被告人:考えませんでした。
裁判官:車はいつ買いましたか?
被告人:4年前に買いました。
裁判官:前の裁判を受けた後?
被告人;はい
裁判官:いくらかかったのですか?
被告人:ローンで400万円くらいです
裁判官:好きな車なんですか?
被告人:そうです。
裁判官:400万円というとかなり高額だと思うんですけど、払っていけると思っていましたか?
被告人:考えましたけど
裁判官:考えたけど?
被告人:ぎりぎりなんとかできるかなと思って。
裁判官:今回あのあインパクトドライバーとかいわゆる電動工具のようなものを盗っている。あなたはそのような工具を仕事では使いませんか?
被告人:使います
裁判官:あなたが仕事に行って現場に工具がなかったら困りますよね?
被告人:なくなったら仕事にならないとわかっていました
裁判官:わかっていたけど?
被告人:わかっていたけど金に困っていたんでそれで盗んでしまいました。
被告人はまだ追起訴される事件があるということで、この法廷での求刑は見送られた。
………
個人的な印象では、被告人はそれぞれの質問に対し、ごまかすことなくこたえていたと思う。一方でカネの使い方は高級車や服、旅行などいわゆる〝遊ぶためのお金〟で幼稚性がうかがえる。
今回の被告に限らず、このようなケースでの犯罪を繰り返さないためには、金の大切さについてより深く認識させる必要性を感じた。