「殴るぞ!」「ナンバー覚えたからな」…警察を呼ぼうとした被害者にを脅す 飲酒・無免許過失運転で大阪まで逃走した男の身勝手な言い訳
2025.11.13
飲酒運転が厳罰化されて久しい。
それでも、今もなお飲酒運転が後を絶たないのは、人の理性を失わせてしまう酒の魔力があるのかもしれない。
今回の被告の男は40代後半の住所不定・無職。事件を起こしたときは、札幌に仕事も住む場所もあったが、クルマを置いて大阪まで逃走し、そのまま大阪に潜伏していたことから、初公判のときは決まった住所と職業を持っていなかった。
男が問われている罪は以下の通りだ
・道路交通法違反(飲酒運転等)
・過失運転致傷
・無免許過失運転致傷
【2023年】札幌市白石区で飲酒した上に車を運転し、信号で停車中の車に追突し、2人にけがをさせた
【2024年】前記事故で免許が取り消しされているのにもかかわらず車を運転し、前を走っていた別の車と衝突し逃走、その後雪山に突っ込んだところ、追いかけてきた被害者の車に再び車をぶつけた上、車を置いて逃走した
警察を呼ばないで事故をもみ消そうとした被告
検察側は冒頭陳述で、被告の男が中学卒業後、調理師として働いていて、これまでにも前科4犯罪を重ねていたこと。2023年の飲酒運転は通夜に出席したあとにビールを飲み、呼気1リットルあたり0.15mg以上の基準を大きく上回るアルコールが確認されていたこと。追突された被害者に「30万円はらうから警察を呼ばないでほしい」と持ち掛けたこと。それでも警察を呼ぼうとした被害者に対し「殴るぞ」「お前のナンバー覚えたからな」「出てこいこの野郎」と脅すように怒鳴ったことなどを明らかにした。被害者はそのとき、被告人から明らかにアルコールのにおいがしたため、話にならないと思い警察を呼んだという。

そして行われた被告人質問。
事故を起こしておいて「気持ちを逆なでされた」と被害者に脅しをかける身勝手な男
弁護士:今回あなたは酒気を帯びて運転をしたこと、無免許運転をしたこと、そのそれぞれで人身事故を起こしました。このことは認めますか?
被告:間違いないです。
弁護士:最初の酒気帯び運転の事故について聞きますが、お通夜の席でお酒を飲んだのですね?
被告:はい。
弁護士:どれくらい飲んだのですか?
被告:コップで瓶から注いで飲んでいたのではっきりおぼえていないですが………。
弁護士:かなり飲んでいたのですか?
被告:かなりではないです。5~6杯くらいです。
弁護士:一緒にいたひとたちが「飲酒運転になるからやめろ」「運転代行を使え」と言ったのは覚えていますか?
被告:はい。記憶にあります。
弁護士:じゃあなぜ飲酒運転をしたのですか?
被告:私も運転代行をするつもりだったのですけど、「遅くなる」と(業者に)言われて、次の日早くて、私も眠くなってきていたので。
弁護士:違法とは考えなかった?
被告:………違法だと思っていたのですが、早く帰るというのを優先してしまった。
弁護士:そして車に乗って、信号待ちをしているクルマに追突してしまった。覚えていますか?
被告:はい、ぶつかってしまいました。
弁護士:酒を飲んでいなかったら事故は起こしていましたか?
被告:それはないです。
弁護士:あなたは事故直後に被害者に「30万円払う」とすぐに言ったらしいけど、それはどういう意味で?
被告:警察を呼ばれたくなかったので。
弁護士:なぜ呼ばれたくなかったのですか?
被告:お酒を飲んでいたので。
弁護士:被害者が警察を呼ぼうとしたらあなたは相手の車の横に立って「出てこいや」「殴ってやる」「ナンバー覚えたからな」と言ったという。覚えていますか?
被告:言った記憶はないです。
弁護士:「ナンバー覚えたからな」ってどういう意図ですか?
被告:自分の写真を撮られたから、そのとき自分の気持ちを逆なでされたと思って言いました。
弁護士:気持ちを逆なで?
被告:警察を呼ばれてこちらを怒らせようとしているのかと思いました。
弁護士:被害者の行動に何か問題ありますか!?
被告:いえ。
弁護士:逃げたいからそうした?
被告:逃げたいためではなく…
弁護士:警察を呼ばれたくなかったのでしょ?自分の行動をどう思いますか?
被告:子どもだと思いますし、相手にとても迷惑をかけています。

再び起こした事故 無免許状態で「すべてを失うと思って逃げた」
弁護士:運転免許はどうなりましたか?
被告:2年間の取り消しになりました。
弁護士:じゃあ次の年の12月31日になぜ運転したのですか?
被告:知り合いから年明けに千葉の仕事の話をもらって。必要な工具や消耗品をそろえるのに必要で運転してしまいました。
弁護士:そして事故を起こした。どうしたのですか?
被告:どうしようと思ったんですけど、無免許だというのがあって、すべてを失ってしまうと思って逃げてしまいました。
弁護士:そのあとに雪山に突っ込んだ。そのあと被害者が来て車のドアを開けようとしましたね。
被告:顔が見られると思ってドアをしめてロックしました。
弁護士:それでどうしましたか?
被告:車が雪山で動かなくなったので、前に行ったり後ろに行ったりして動こうとしました。
弁護士:そのとき被害者の車にぶつかっている。覚えていますか?
被告:まったく覚えていないです。
弁護士:そしてどうしましたか?
被告:警察に連絡している声が聞こえたので、車を置いて逃げました。
弁護士:そのあと札幌から大阪へ移ったのはいつごろ?
被告:2月中ごろからです。
弁護士:自首しようとは思わなかった?
被告:何回か思ったのですが怖くなって…
弁護士:そして今年の9月に逮捕されました。どう思いましたか?
被告:ホッといた気持ちもありました。
弁護士:今後運転はしますか?
被告:運転しないで生きていこうと思います
弁護士:お酒は?
被告:やめようと思います。
………………

勝手に事故を起こした被告が巻き込まれた被害者に対して言う言葉なのか、疑問の残った被告人質問。
弁護側の質問が予想の時間より長くなったため、検察官や裁判官の質問はほとんどなく、審理は終了した。そして求刑。
検察側は、被告の行動は悪質で再犯のおそれもあるとして、懲役1年6か月を求刑。
一方の弁護側は、被告は罪を認め捜査に協力しているとして、執行猶予を求め、執行猶予がつかない場合でも、実刑の減刑を求めた。
最後に言いたいことはありますか?という裁判官の問いかけに、被告は次のように答えた。
「はい、被害者に対して穏当に申し訳ないことをしたと思っています。社会人として恥ずべき行動をしたと思い、これから直していこうと思います。すみませんでした」
判決はおよそ2週間後に言い渡される。
